私は、「派閥」という言葉が好きではない。
好きではないが、
しかし、ここであえて宣言したい。
私は、「mp3派」だ!長年、愛用してきた、mp3。

あんな時もこんな時も、片時も離れることなくともに過ごしてきた、糟糠の妻ならぬ、糟糠のmp3。
最愛の君。
その瑠璃色のボディーは、出会ったころに比べると、確かに少なからず輝きは失われたかもしれないが、
しっくりと手に馴染む様は、どんな熟年夫婦よりも確かで安心で、なににも変えがたい強い絆を感じる。
どこを押せばどんな反応をしてくれるのか、私は君の隅々まで熟知していて、
鞄の中にいる君を手探りで思いのまま動かすなんてことはお手のもだし、その時の気分にあわせて自在に曲を選ぶことだってできる。
真っ暗なベッドルームでも、いつでも君から美しい声を奏でさせることができたし、その声に安心して、幾つもの暗い夜を夢に溶かしてきた。
長く緩やかに育んだ君との愛が、そうそう簡単に消えうせるはずもない。
愛してるよ、最愛の君。
しかし。
時間は流れた。
2時間も寝かせればフル充電になる高速充電が自慢だった君は、いつしか5時間繋いでいてもなかなか満タンにならなくなった。
36時間は再生可能とのタフさが特徴だった君が、USBからはずして3秒で、充電表示が減るようになった。
通勤電車に揺られる20分間の間に、充電マークが、まるで酸素を求めて口をパクパクさせる鯉のように、パカパカと苦しげに点滅するようになった。
もう君には、一日の使用量を乗り越えるだけの力はなくなっていたんだ。
でもね、君。
それごときの理由で君を手放すほど、私の愛は浅くはない。
充電がなんだ!
バッテリーがなんだ!
会社、駅、コンビニ、デーパート・・・その気になればコンセント口なんていくらでもある。
君が苦しくなれば、いつでもそこに黒いコードを差してあげよう。
君のためだったら、私は窃盗の罪だって厭わない。
苦しみは、君と共に歩み、乗り越えてゆこう。
そんな覚悟を決めた矢先だった。
ある朝、唐突に家のポストに届けられた一枚のちらし。
それは、某家電量販店のセールのお知らせだった。
もちろん、そんなのに目をくれるつもりもなかったよ。
君という愛する相棒がいながら、他のmp3に気持ちを奪われるなんて、そんなことあるはずもなかった。
そりゃ、目一杯におめかしをし、プロのカメラマンの手によって美しく撮られたmp3は、正直に言えば、すごく魅力的だったよ。
でもそんなの、君と過ごした思い出の輝きに比べれば、米粒ほどの魅力もなかった。
しかし。
・・・そうだね。
あの時私は、少し、疲れていたのかもしれない。
魔が差したとは、こういうことを言うのだろうか。
ふとなにげなくちらしに目をやった私に飛び込んできた文字に、私は目を離せなくなったんだ。
32GB!!!11800円!!(や、安い・・・。そして、大容量w(*゚o゚*)w!!)
・・・いや、16GBの君をどうこういうつもりではないんだ。
16GBのなにが悪い。16GBは大容量だ。
16GBもあれば、なんでもできる。16GBあれば、ホームレスもできる。
危ぶめば道はなし。迷わずいけよ。行けば分かるさ。
ジュウ・ロク・ギガ・バーーーーーーイト!!!
そう。
容量なんて、きっと気持ち次第だ。
実際、先代の2GBから君に乗り換えた時の、これでもかこれでもかと曲を飲み込んでくれたあの感動を、私は今でも忘れない。
16GBという数字の向こうに、私は「永遠」という文字を見たんだ。
でも。
でもね。
やはり人間の心は弱い。いや・・・私の心が弱かったんだ。
16GBという数字に目がくらみ、気が付けばいつしか、新しい曲を入れるためには、どれか別の曲を消さなくてはならないほどに、君をパンパンにしてしまっていたんだ。
「16GBって、宇宙みたい.:*゜.:。:.(´∀`).:*゜:。:.」
そう言って目をキラキラさせて君を抱きしめたあのころの私は、もういなくなってしまっていたんだ。
あまつさえ、
「16GBって、案外少ないなー(・ε・)」
そんなひどい言葉を君に浴びせかけるようにまで、私は変わってしまっていたんだ。
そんな心の弱さに入り込むかのように、
あいつは一瞬にして、私の心を虜にした。
「欲しい・・・」
ちらしを見ながら思わずそう言っていたよ。
ビッグビッグビッグビッグカメラ~♪
陽気な音楽が能天気に鳴り響く店頭に来てさえもまだ、私の心は揺らいでいた。
こんなこと許されるのだろうか。許されてもいいのだろうか。
レジの前で12000円を出し、200円のお釣りを受け取り、それを財布に入れ、ポイントカードを出し、ポイントは使われますか?いえ、使いません。御一緒にUSBケーブルはいかがですか?いいえ結構です。
そんな会話を交わしながらも、私は苦しかった。
家に帰り、丁寧に梱包を解き、その美しい肢体を手にしたその瞬間でさえ、やはり私は罪悪感に苛まされていた。
いいんだろうか。目の前の幸せに身を委ねてもいいんだろうか。
私だけ幸せになっても、いいんだろうか。
その時、なにかの啓示のように、こんな言葉が私の脳裏によぎったんだ。
”一番美しい絵は、寝床のなかでパイプをくゆらしながら夢見て、決して実現しない絵だ”そう。
これは有名なゴッホの言葉だね。
その時、私は君を、夢の中で生きつづけさせようと決めたんだ。
確かに君は二度と、私に囁きかけることはないかもしれない。
でも、それによって、君は永遠の美となることができるのだ、と。
さようなら、最愛の君。
君のことは忘れないよ。いつまでも、いつまでも・・・。
と。
そんなこんなで。
お?ここはどうなってんだ?やだ、やめてよー❤と、
きゃっきゃっ♪うふふ♪な楽しい日々を、新しいmp3と送っていた近頃の私。
「32GBって、宇宙みたい*:.。☆.(´∀`人)」
と、あらん限りの曲をこれでもかこれでもかと流し込むこと、総勢5000余曲。
ジャケット写真を丁寧に編集し、プレイリストを作成し、一曲一曲にその曲の出会いと感想をひとこと入力し・・・ってさすがにそこまではないにしても、
とにかく夢中で新しいmp3と蜜月を過ごしているのである。
ということで。
ソニなんとか製の、新しいmp3。

私はこれから、この子と新しい人生を歩んでいきます。
よろしくね♪
という、お久しぶりの更新でございました。